インド進出のために欠かせない現地マーケット理解(インド市場調査の前に)
- Jet Research Team

- 2024年6月6日
- 読了時間: 6分
インドは世界最大の民主主義国であり、人口は約14億人と巨大な潜在市場となっています。経済成長率も年率7%前後と高水準が続いており、グローバル企業が成長の機会を求めて進出を図る魅力的な市場です。
一方で、その複雑で多様性に富む市場構造ゆえに、適切な現地マーケット理解なくしてインド進出を成功させることは極めて難しいと言えます。本記事では、インド市場の理解に欠かせないポイントを解説します。

【広大な国土と地域間格差】
インドの国土は日本の約9倍の広さがあり、気候や言語、文化、宗教などに大きな地域差が存在します。
気候は北部は亜熱帯から温帯、南部は亜熱帯から熱帯と地域によって大きく異なります。一般的に北部は比較的過ごしやすい気候ですが、南部は非常に暑く多湿となります。
公用語は連邦政府レベルでヒンディー語と英語が指定されていますが、実に22の公用語があり、地域によって話される言語が異なります。また、民族・部族の多様さからくる文化の違いも大きな特徴です。
宗教に関しても、ヒンドゥー教(約80%)が多数派ですが、イスラム教(約14%)、シーク教、ジャイナ教、仏教など様々な宗教が共存しています。
このように、地域間の格差が大きいインドにおいては、各地域の特性を熟知した上で最適なマーケティング施策を立案する必要があります。全国一律のアプローチでは限界があり、地域別の細かい対応が求められます。
【所得格差と中間所得層の台頭】
インドには所得格差が大きいことが特徴的です。富裕層は約3%と一部に過ぎませんが、中産階級と呼ばれる中間所得層が最近急速に拡大しています。
この中間所得層は、都市部を中心に増加しており、可処分所得の増加に伴い消費活動も活発化しています。中間所得層がインドの内需の柱として大きな影響力を持つと同時に、マーケティングのターゲット層としても最も重要な層になってきています。
一方、所得1ドル以下の低所得層は約25%と極めて厳しい生活環境にあり、一般消費財の対象にはなりづらい層です。
このように所得格差が大きく、経済成長による恩恵を受けられる中間層と、そうでない層の二極化が課題となっています。企業は、ターゲット層となる中間所得層の実態を正確に把握する必要があります。
【都市部と農村部の格差】
インドは都市人口が3億人を超える一方で、農村人口は約7億人と都市部と農村部の格差が大きな課題となっています。特に所得や生活水準の違いが顕著です。
例えば、下記のようないくつかの指標を見ると、都市部と農村部の格差が一目瞭然です。
一人当たり年間消費支出: 都市部 55,508ルピー 、農村部 40,925ルピー
人口1000人当たり病院敷地内ベッド数: 都市部2.3、農村部0.7
人口1000人当たり医師数: 都市部1.8人、農村部0.5人
都市部は中間所得層を中心に新興市場化が進むのに対し、農村部では所得水準の低迷が続き、マーケティング対象とはなりづらい層がいまだ多数を占めています。こうした都市部と農村部の二極化が、今後のインド社会の大きな課題となっています。
企業は、ターゲット層を明確にするだけでなく、農村部に対する配慮も重要になってきます。一部の先駆的なメーカーでは、農村部をターゲットとした製品開発なども行われるようになってきました。
【オンラインとオフラインの2つの市場】
インドには、オンライン市場とオフライン市場の2つの顔があります。
オンライン市場は近年急速に拡大しており、スマホやSNSの普及が後押ししています。若年層を中心に、ネットショッピングやデジタルサービスの利用が広がっています。一方で高齢層や地方在住者は、オフラインでの実店舗や対面販売を重視する傾向にあります。
オンラインとオフラインでは、ユーザーの属性や行動パターン、求めるものが大きく異なります。マーケターは、この2つの市場の特性を理解し、オムニチャネル戦略を構築する必要があります。
【デジタル化の遅れとキャッシュレス化の進展】
インドはデジタル化が他の新興国に比べて遅れを取っている分野もありましたが、近年ではキャッシュレス決済が急速に普及しています。
スマホ決済アプリPaytmが普及し、QRコード決済が身近になってきました。政府主導のデジタル化推進や、高額紙幣の廃止なども後押ししています。
一方で電子マネーやクレジットカードの普及はまだ低い水準です。ITリテラシーの課題や、インフラ整備の遅れから、キャッシュレス化の裾野は広がりにくい面もあります。
デジタル化が遅れる分野とそうでない分野があり、マーケターは適切なチャネル戦略が求められます。デジタルとフィジカルの最適なミックスが重要になってくるでしょう。
【低価格ニーズとプレミアムニーズの狭間】
所得格差が大きいインドには、低価格ニーズとプレミアムニーズの双方が存在します。
中間所得層は確かに拡大しつつありますが、一方で低所得層も依然として多数を占めています。彼らは基本的な生活必需品でさえ、低価格を重視せざるを得ない状況にあります。
一方で富裕層や一部の中間所得層では、高級品やブランド品へのニーズが高まっています。自身の富や地位を象徴する消費を求める傾向があり、プレミアム製品に対する支払い意欲も高くなっています。
このように価格帯の二極化が顕著なため、マーケターは製品ポートフォリオを組み立てる際、低価格とプレミアムの双方を意識する必要があります。単一の価格帯だけに特化すると機会損失が生じかねません。
【ローカル製品の人気と海外ブランドの浸透】
インド市場では、ローカル製品と海外ブランドの勢力図が複雑に入り組んでいます。
日用品や食品、家電などの分野では、地場のローカルメーカーが高いシェアを持っています。彼らは現地の嗜好に合わせた製品開発を行い、低価格を強みとしています。
一方でスマホや自動車など、一部の先端製品分野では、海外ブランドが人気となっています。グローバルな高級ブランドへの憧れもあり、富裕層を中心に浸透が進んでいます。
ローカルメーカーと海外ブランドは、価格帯を異にすることが多く、明確な棲み分けができている分野もあれば、激しく競合する分野もあります。 マーケターは、ブランド力の強さと製品カテゴリーごとの事情をよく見極める必要があります。
【グローバリゼーションとローカライズの狭間】
インドには、グローバリゼーションとローカライズの2つの波があります。
グローバルブランドの進出や、デジタル化の波の中で、新しい消費トレンドが都市部から芽生え始めています。SNSの影響もあり、一部の若年層ではグローバルな価値観が浸透してきました。
一方で、伝統文化を重んじる保守的な層も多く残っています。特に地方に行けばいくほど、ローカライズされた製品やサービスへのニーズが根強くなります。
マーケターは、これらグローバリゼーションの波とローカライズの波を上手く組み合わせる"グロ-カル"な戦略が求められます。ブランド力を失わずに現地の嗜好も取り入れる、そんなハイブリッドなアプローチが重要になってくるでしょう。
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